先物価格の決まり方(arbitrage free pricing)

先物取引先物価格とは

先物取引は、予め決められた将来の時点において原資産(株式など)を特定の価格で売買する契約です。 この「特定の価格」を先物価格といいます。

例として株価指数先物を考えましょう。

株価指数先物の原資産は、その指数を構成する株式銘柄のポートフォリオとなります。

以下は、「TOPIX」と「TOPIX先物(2024年6月限)」の2024/3/1の前場におけるティックチャートです。

TOPIXの現物(Spot)と先物(Future)

実は、先物価格は以下の要素だけで決まることが理論的に導かれます。

その公式を書いておくと、


\begin{align}
f &= Se^{rT} - Q\\\
S&:\mathrm{現物価格}\\\
r&:\mathrm{決済日までの無リスク金利}\\\
T&:\mathrm{決済日までの期間}\\\
Q&:\mathrm{決済日までの配当}
\end{align}

となります。数式の見た目にはいくつかのバリエーションがありますが、エッセンスとしては、

  • 現物価格に対して、
  • 無リスク金利相当分を加えて、
  • 配当相当分を引く

ということになります。本稿ではこれを示したいと思います。

(注意) この公式が成立するには、現物市場と先物市場で十分な裁定が働いているという条件があります。 たとえば、現物の取引が容易ではない原油などの商品先物では、先物と現物の関係はより複雑になります。

先物価格の理論式の導出

簡単のため、本稿では二時点モデルで考えましょう。 すなわち、時点はt=0t=Tのみを考え、取引はt=0でのみ可能とします。

さらに、マーケットでは原資産である株式と無リスク債券のみが存在しており、株式にのみランダム性があるとします。

時刻t=0の株式の価格をS_0、債券の価格をB_0とします。また、株式が時刻Tまでに生み出す配当の総額をQとします。

ここまでが、マーケットのモデルの説明です。

さて、「時点Tにおいて価格Kで株式を売買する」という契約を考えます。

つまり先物契約のことですが、ここでは省略して、「先物契約K」ということにします。

買い手(ロング)は、時点Tにおいて、S_T-Kの損益があります。 もちろん、売り手(ショート)はその反対のキャッシュフローを得ます。

売り手と買い手が合意できるようなKを合理的に決める方法はあるのでしょうか。

この契約を株式・債券のポートフォリオを組むことで、先物契約Kと全く同じことができないか考えます。 いわゆるポートフォリオを用いた複製の考え方です。

まず、株式をa 枚、無リスク債券をb枚のポートフォリオを組み、その経済的価値をV_0とします。


\begin{align}
V_0  = aS_0 + bB_0
\end{align}

時刻t=Tにおける、このポートフォリオの経済的価値をV_Tとすれば、


\begin{align}
V_T(\omega)  = aS_T(\omega) + b e^{rT} B_0 + Q
\end{align}

となります。ここで、\omegaは株式の価格変動のランダム性を表す記号です。確率論のことばで言えば「標本空間の元」です。

さて、このポートフォリオt=0において先物契約Kに等価値になっているためには、V_T(\omega)が以下の形になっていればよいことになります。


\begin{align}
V_T(\omega)  = S_T(\omega)-K
\end{align}

V_T(\omega) のふたつの表示を見比べて、


\begin{align}
&a = 1\\\
&bB_0 = -(Q+K)e^{-rT}
\end{align}

を得ます。以下、上式を満たすa,bによるポートフォリオを「複製ポートフォリオV」と呼ぶことにします。

ここで、背理法V_0=0を示します。

今、V_0が真にプラスの値であるとしましょう。このとき、t=0において、

・複製ポートフォリオVを空売りして、

先物契約Kをロングすることによって、

価格変動リスクを完全に打ち消した状態で、Vの空売りからの収入を得ることができます。

また、この取引は正味の資金投下なしで実行できるので、いくらでもスケールすることができます。

つまり、先物契約Kに着目すると、ロング側がノーリスクでいくらでも利益を得ることができる状況になっています。

逆にいえば、このような状況で、先物契約Kをショートする人はいないと考えられます。

したがって、先物契約Kは約定しないといえます。

V_0が真にマイナスのときも同様の議論で、先物契約Kは約定できません。

以上より、先物契約Kがマーケットで成立するためには、V_0=0となるようなKでなければいけません。

背理法はここまでです。

さて、V_0=0より、


\begin{align}
aS_0 + bB_0  = 0
\end{align}

となります。これに先に求めたabを代入して以下を得ます。


\begin{align}
K=S_0e^{rT}-Q
\end{align}

これで、先物価格の公式が求められました。

本稿の議論でみたような金融商品の価格の決め方を arbitrage free pricing といいます。

要点は「資金0からノーリスクでリターンを得ることはできない」という考え方です。

速習!線形回帰!

はじめに

線形回帰(単回帰分析、重回帰分析)は、統計学における最も基本的な技術のひとつです。

本稿では、回帰分析の理論的な基礎をまとめてみましょう。

射影行列の復習

線形回帰の理論は、射影行列を用いて展開すると大変見通しがよくなります。

まずは、射影行列を復習しましょう。なお、本稿を通してX^\primeは、行列Xの転置を表します。

定義(射影行列)
対称行列\Pi \Pi^2=\Piを満たすとき、\Piを射影行列という。
補題(射影行列の性質)
(i) \Piが射影行列であれば、1-\Piも射影行列である。
(ii) 射影行列は対角化可能であり、その対角成分(固有値)は0か1に限られる。
定理(正規変数の2乗)
射影行列\Piと独立な標準正規分布に従う確率ベクトルZ = (Z_1,\cdots,Z_n)^\primeに対して、 \lvert\lvert \Pi Z\rvert\rvert^2は自由度\mathrm{tr}  \Pi\chi^2分布に従う。
線形回帰モデルと最小二乗推定量

線形回帰モデルでは、出力データ

Y=(y_0,y_1,\cdots ,y_{n-1})^\prime

p個の入力データ

X_j = (x_{0j},x_{1j},\cdots,x_{(n-1)j})^\prime ,\  j=0,1,\cdots,p-1

で回帰することを考えます。

回帰パラメータ\beta=(\beta_0,\cdots,\beta_{p-1})^\primeと残差ベクトル

\varepsilon=(\varepsilon_0,\varepsilon_1,c\cdots,\varepsilon_{n-1})

を導入して、回帰式を以下のように定めます。


Y = X\beta +\varepsilon

ここで、X=(X_0,X_1,\cdots,X_{p-1})N\times p行列です。X_0=(1,1,\cdots,1)^\primeとすれば、モデルに切片を取り込むことに相当します。

パラメータ\betaは以下の\mathcal E (\beta) を最小化するものとして推定されます。


\begin{align}
\mathcal{E}(\beta)  &=  \lvert\lvert {Y-X\beta}\rvert\rvert^2 \\\
&= \lvert\lvert {(X^\prime X)^{\frac{1}{2}}(\beta-(X^\prime X)^{-1}X^\prime Y) }\rvert\rvert^2\\\
&\ \ \ \ \ \ \ \ -Y^\prime X (X^\prime X)^{-1} X^\prime Y+ Y^\prime Y
\end{align}

上式の2行目は平方完成です。これにより、最小化問題の解は以下のようになることがわかります。


\begin{align}
\hat\beta &= \mathrm{argmin} \mathcal E(\beta)  \\\
&=(X^\prime X)^{-1} X^\prime Y
\end{align}

定量\betaの分布

定量\betaの統計的性質を議論するため、\varepsilonは各成分独立の正規分布に従うと仮定します。つまり、


\varepsilon \sim N(0,\sigma^2I)

とします。すると、\hat\betaの平均と共分散行列は、真の値\beta,\sigma^2を用いて以下のようになります。



\begin{align}
\mathbb{E}[\hat\beta] &= \mathbb E [ (X^\prime X)^{-1} X^\prime (X\beta+\varepsilon) ] \\\
&=\beta
\end{align}


\begin{align}
\mathrm{Cov}(\hat\beta) &= \mathbb E[\hat\beta \otimes \hat\beta^\prime]-\mathbb E [\beta]\mathbb \otimes E[\hat\beta]\\\
&=(X^\prime X)^{-1}X^\prime \mathrm{Cov}(Y) X (X^\prime X)^{-1}\\\
&= \sigma^2(X^\prime X)^{-1}
\end{align}

最後の変形では、\mathrm{Cov}(Y)=\mathrm{Cov}(\varepsilon)=\sigma^2Iを用いました。

また、残差平方和を\mathrm{RSS} = \mathcal E(\hat\beta)とすると、以下のように表示できます。


\begin{align}
\mathrm{RSS} &= \lvert\lvert {Y-X\hat\beta}\rvert\rvert^2 \\\
&=\lvert\lvert {Y-X(X^\prime X)X^\prime Y}\rvert\rvert^2\\\
&=\lvert\lvert {(I-H) Y}\rvert\rvert^2
\end{align}

ここで、H=X(X^\prime X)^{-1}X^\primeとおきました。Hは射影行列となっています。
今、(1-H)X=0より(1-H)Y=(I-H)\varepsilonなので、結局、



\mathrm{RSS} =\lvert\lvert {(I-H) \varepsilon}\rvert\rvert^2\\

期待値をとると、


\begin{align}
\mathbb E[ \mathrm{RSS} ] &=\mathbb E [ \lvert\lvert {(I-H) \varepsilon}\rvert\rvert^2 ] \\\
&=\mathbb E [ \mathrm{Tr}[(I-H)\varepsilon\otimes e^\prime(I-H)] ]\\\
&= \mathrm{Tr}[(I-H) \mathbb E[ \varepsilon\otimes e^\prime ] (I-H)] \\\
&= \sigma^2\mathrm{Tr}[(I-H) ] \\\
&= \sigma^2(n-p)
\end{align}

これから、\sigma^2の推定量として、以下の\hat s^2を定義します。


\hat s^2 = \frac{1}{n-p}\mathrm{RSS}

このとき、以下が成り立ちます。



\frac{n-p}{\sigma^2}\hat s^2 = \lvert\lvert {(I-H) \sigma^{-1}\varepsilon}\rvert\rvert^2 \sim \chi^2_{n-p}

また、\hat\beta-\betaおよび(I-H)\varepsilonのそれぞれの各成分は平均0の正規分布であり、相関を計算すると、


\begin{align}
\mathbb E [ (\hat\beta-\beta) \otimes (I-H)\varepsilon ] &= (X^\prime X)^{-1}X^\prime (\varepsilon\otimes\varepsilon^\prime)(I-H) \\\
&=0 
\end{align}

となることから、\hat\beta-\betaおよび(I-H)\varepsilonは独立であり、ゆえに\hat\beta\hat s^2も独立であるとわかります。

t値と検定

\hat\beta \sim N(\beta,\sigma^2(X^\prime X)^{-1})より、(X^\prime X)^{-1}j番目の対角成分をc_jとすれば、\hat\beta_j\sim N (\beta_j,c_j\sigma^2)となります。

ここで、\beta_j=\beta_j^{\mathrm{Null}}帰無仮説とした検定を考えます。いま、


\hat t_j = \frac{\hat \beta_j-\beta_j^{\mathrm{Null}}}{\sqrt{c_{j}\hat s^2}} =\frac{(\hat\beta_j-\beta^H_j)/\sqrt{c_j \sigma^2}}{\sqrt{\frac{n-p}{\sigma^2}\hat s^2 \frac{1}{n-p}}}

とおくと、分子は正規分布、分母はχ自乗分布の平方根であり、それぞれ独立なので、t_j\sim t_{n-p}となることがわかります。